ちなみちゃんの笑顔が、すべての始まりだった。

「フワフワでおいしい!」
ちなみちゃんの満面の笑顔が、今でも忘れられません。
あれは、今から約20年前の話です。
パンが、全然売れなかった

2005年10月8日。
夫婦二人で、スーパーの中に小さなパン屋を始めました。
ところが、当初はパンが全く売れませんでした。
お客様に手に取ってもらえず、毎日不安な日々が続きます。
「卵と牛乳を使っていないパンを作っていただけませんか?」

そんなとき、一人のお客様から声をかけていただきました。
同じ町内に住む、小学校5年生の「ちなみちゃん」のお母さんです。
ちなみちゃんは、卵と乳製品のアレルギー。
アレルギーについて何の知識もありませんでしたが、「喜んでいただけるなら、もちろん!」と二つ返事で引き受けました。
パンが売れていなかったから、一人のお客様の声に耳を傾けることができたのだと思います。
いま振り返ると……パンが売れていなくてよかった(笑)
恐る恐る、食べてもらった

半信半疑で作った、卵乳不使用のコッペパン。
ちなみちゃんに恐る恐る食べてもらうと……
満面の笑顔!「フワフワでおいしい!!」
この笑顔が見たくて、クロワッサン、メロンパン、クリームパン……
次々と卵乳不使用のパンを作り続けました。
卵と乳製品を入れない方が、おいしかった

作り続けながら、不思議なことに気づきました。
卵や乳製品を使ったパン生地より、使わない生地の方がおいしい。
昔から、卵や乳製品を加えた方が美味しくなると教えられてきました。
なのに、入れない方がなぜかおいしい……
よく考えてみると、何も入れない白いご飯っておいしいですよね。
炊き込みご飯もおいしいけど、毎日食べると飽きが来る。
パン生地も、余計なものを入れない方が、素材の味が引き立つのかもしれません。
「おいしい」が正義。

パンの教科書も、先生もいない。
「自分が食べておいしい」が唯一の正解。
常識が正しいとは限らない——
そのことを、20年前のちなみちゃんの笑顔が教えてくれました。
あの笑顔があったから、今のtontonがあります。
