パンを焼きながら、いつも一人の顔を思い浮かべています。
前回のお知らせで、tontonが何のためにパンを作っているのかを書きました。
食べられない子に、食べられるパンを。
今日はその続きで、「では、誰に届けたいのか」という話です。
実は20年前、私は誰のために焼いているのか、分かっていませんでした。

棚を埋めることが、目的になっていました
夫婦二人で始めたパン屋は、とにかく人手が足りませんでした。
朝の5時から、夜中の1時頃まで。
スーパーの中のインストアベーカリーなので、お休みは元旦だけです。
とにかく棚を埋めたくて…
毎日ただ夢中でパンを焼いていました。
いま思い返すと、あの頃はパンを作ることそのものが目的になっていました。
誰のために焼いているのか、分からないまま焼いていた気がするんです。
それに気づかせてくれたのが、ご近所のちなみちゃんのお母さんからいただいた、あの一言の相談。
あのとき、はっきりわかったんです。
tontonのパンを食べてくれるお客様の笑顔が見たかったんだ、と。

いまは、一人の顔が浮かびます
見たい笑顔が決まってから、作るパンが変わりました。
いまパンを焼いていると、決まって浮かぶ場面があります。
給食の時間。
みんなはパンを食べているのに、自分の子どもだけが食べられない。
それを知っている親御さんの、「かわいそう」「何とかしてあげたい」という気持ち。
でも、どこで、何を選べばいいのか分からない。
「やっと見つけることができました」
tontonにたどり着いたお客様から、そう言っていただくことがあります。
その一言をうかがうたびに、ここへ来られるまでにずいぶん探されたのだろうな、と思います。
まだ探している最中の、どこかの親御さん。
その方の顔を思い浮かべながら、今日もパンを焼いています。

お子さんは、みんなと同じものが食べたい
お子さんの側から見ると、また少し違う景色が見えます。
みんなと同じものを食べたい。
ただそれだけなんです。
自分だけ違うことが、少し不安で、少し恥ずかしい。
小さくても、そういうことはちゃんと分かってしまいます。
だから私たちがいちばん先に伝えたいのは…
大丈夫。このパンなら食べられるよ。
「おいしかった」と帰ってくる日まで
思い描いている場面があります。
そのお子さんが、みんなと同じようなパンを食べている。
そして帰ってきて、「おいしかった」と笑っている。
その一言を、お母さんが聞いている。
そこまでいって、ようやくtontonの仕事は終わりだと思っています。
だから、パンじゃなくてもいいんですけどね。
でも、パンしか作れないから…(笑)

見たかったのは、この笑顔でした
20年前、私は誰のために焼いているのか分からないまま、ただ棚を埋めていました。
いまは、はっきりしています。
給食の時間に困っている親御さんと、そのお子さん。
その向こうにいる、ご家族みんな。
みなさんが笑ってくれるところが見たくて、今日もパンを焼いています。
もし、どこで何を選べばいいのか分からずに困っている方がいらっしゃったら…
そんなときに、tontonのことを思い出してもらえたら嬉しいです。
