トントンが国産小麦に切り替えたわけ
安全・安心のために
パン屋を自分で始めて以来、14年間、カナダ産の小麦粉を使ってきました。
品質の高いパンを作ることができ、遺伝子組み換え作物ではなく、ポストハーベスト(収穫後の農産物に使用する殺菌剤散布)の残留濃度が低いから。
ところが最近になって、オーガニック(有機栽培)小麦を除くカナダ産小麦はプレハーベスト(収穫目前に除草剤を散布)しているという事実が発覚しました。
畑に実っている小麦をすべて枯らすことで、収穫を2週間くらい早めることができるそうです。
プレハーベストで主に使用されている除草剤は、主にラウンドアップが使用されていて、主成分は「グリホサート」という、アミノ酸系除草剤の一種です。
世界が禁止するグリホサート
2010年代後半、アメリカでは、ラウンドアップを販売するバイエル社(モンサント社を買収)に対して訴訟が多数起こされました。
その内容は主に「グリホサートを含有するラウンドアップを長年使用したことにより健康被害(悪性リンパ腫)を引き起こされた」ことに対する賠償請求訴訟です。
2018年、カリフォルニア州地方裁判所の陪審は、グリホサートを含有するラウンドアップが、がん発生の「事実上の要因」であるとの評決を下しました。
がん発生に関する研究データを隠蔽していた事実が法廷で明らかにされたからです。
その後も賠償を認める判決が次々に下され、バイエル社が支払った和解金の総額は100億ドルを超えるといわれています。
約10万件を超える訴訟を抱えることになったバイエル社は、2023年以降販売する家庭向けのラウンドアップにはグリホサートを使用しないと発表しました。
また、WHOの外部研究機関である国際がん研究機関(IARC)は2015年3月20日に、グリホサートを「おそらく発ガン性がある」という『グループ2A』のカテゴリーに指定しました。
フランス、ベルギー、オランダでは家庭用の販売が禁止、ドイツも含めた4カ国は家庭や公共の場所でのグリホサートの使用を禁止しています。
アラブ6カ国も販売を禁止、ベトナムなどアジア諸国でも販売禁止の動きがありましたが、タイとスリランカでは農業流通への影響などから輸入禁止措置が撤回されています。
日本ではどうか
ラウンドアップの日本の販売会社、日産化学の説明によると…
有効成分“グリホサート”はもっとも簡単なアミノ酸である“グリシン”と“リン酸”の誘導体、野生生物・鳥類・昆虫類にも極めて安全性が高く、世界の環境保護区や、世界遺産の保全に、広く利用されています。
とあります。
世界中でグリホサートの危険性が議論されている中、日本では店頭でグリホサートが主成分の家庭向けラウンドアップが簡単に手に入る状況です。
もちろん、グリホサート含有のラウンドアップを家庭用として購入できるのは、日本に限ったことではありません。
イギリスやポーランド、ニュージーランドなどでは、日本と同様に家庭用として購入・使用することが可能です。
また、フランス、ベルギー、オランダなど、公共の場所や家庭での使用が禁止されているとして挙げた国々でも、農業用として使用することは禁止されていません。
アメリカ・バイエル社も、グリホサートを使用しないラウンドアップは家庭向けのみで、農業用・業務用のものは依然グリホサート含有のものが基本となっています。
2025年、「ラウンドアップがガンを引き起こすという虚偽の情報を拡散した」「これは誹謗中傷、名誉毀損にあたる」として、日産化学が投稿者相手に訴訟を起こしました。
複数名に対して申し立てられたこの訴訟では、「正義感から行なった投稿であっても、虚偽情報の拡散は違法行為にあたる」と認定され、一部投稿者に対して賠償命令が言い渡されました。
日産化学のホームページでは、グリホサートが危険な物質ではないこと、ラウンドアップが安心して使える除草剤であることを詳しく説明しています。
食の安全は守られているのか
ですが、いくらメーカーが科学的データを出して「これは安全です」と説明してくれても、感情として納得できないところがどうしても出てくるものです。
それは、『自分や自分の大事な人の安全が脅かされるかもしれない』と感じるからなのかもしれません。
この表は、各国産小麦のグリホサート残留量の分析結果です。
輸入米麦のかび毒、重金属及び残留農薬等の分析結果【令和5年度】 小麦(食用)- 農林水産省
カナダ産小麦は84点検査中81点が残留グリホサートを検出。
日本のグリホサート残留基準値の30ppmには達していないものの、令和5年度は96%のカナダ産小麦からグリホサートが検出されています。
このグリホサート残留基準値、29年度までは5ppm(5mg/kg)でしたが、2017年から30ppm(30mg/kg)と6倍になりました。
厚生労働省によると、この基準値引き上げは「国際的な基準(コーデックス基準)との整合性を図るため、そして輸入農産物の安定供給を確保するため」だそうです。
ですが、30ppm(30mg/kg)という基準値を採用しているのは日本以外ではアメリカのみで、カナダで15ppm(15mg/kg)、EUやオーストラリアでは5ppm(5mg/kg)。
日本政府は「グリホサートの安全性を確認した」との評価書を公表していますが、何を根拠に安全性が確保できていると確認したのでしょうか?
とても穿った見方になりますが、アメリカ企業とアメリカ政府からの圧力に屈してこのような判断を下したと思ってしまうのです。
子どもたちの将来、安全・安心のために
ラウンドアップ訴訟はまだ終了しておらず、もしかすると日産化学株式会社や日本政府の説明の通り、発がん性はなく安全なのかもしれません。
含有量が30ppm以下であれば、安全性が確保できるという判断なのでしょう。
国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対しておそらく発がん性がある」として定める『グループ2A』の中には、グリホサートの他に「赤肉」「夜間勤務」「65度を超える熱い飲料」なども含まれています。
世の中にはもっと発がん性の高いものがあるし、グリホサートはそんなに気にする基準ではないのかもしれません。
しかし、トントンが一番大切にしているのは、『お客様に安心して食べていただく』ということなのです。
2019年12月、トントンで作るパンをすべて国産小麦に切り替えました。
現在のところ日本では、小麦栽培においてプレハーベスト自体が禁止されているため、農薬の曝露がとても少ないからです。
国産小麦に切り替えたことにより、価格が上がり、小麦の香りや味わいも若干弱くなった気がします。
ですが…
どんなに美味しかったとしても、価格が安かったとしても…安全安心が確保できなければ、意味がありません。
「身体を作っているのは食べ物」とよく言われます。
であるならば、口に入れるものは食べる人が安心できるものがいい。
パンの原材料は、農薬問題、添加物問題、アレルギーの問題など、課題が多いものです。
アレルギーの方が多い「卵」「乳製品」「ナッツ類」「ごま」を使わないことだけでなく、その他の原材料をしっかりと吟味することは、パン屋としてとても重要なことだと思っています。
アレルギーがあってもなくても「おいしい!」と言っていただけるパン。
そして何より、安心してお召し上がりいただけるパンを目指しています。